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廻る、廻る、世界は廻る。クルリクルリと、狂り狂りと。
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 A shadow toward the sunlightⅢ

 目が覚めた。
 忘れていた感覚と痛みに身体が悲鳴をあげていた。
 ふと、眠りに就く前と場所が違うことに気付き、ばっと身体を起こした。
 「ここは・・・どこだ?」
 どうやら洞窟か何かの中の様だ。辺りは静まっていて、ひんやりとした澄んだ空気が流れている。岩肌から水が染み出しているのか、時々水の落ちる音がする。
 その時、足音がした。
 私が驚いて振り返ると、そこには金色の瞳を持つライオンとその横に立つ少年がいた。
 緊張の一瞬。
 膠着状態が続く。いつ襲いかかってくるか分からないので、姿勢を低くして備えた。
 「人間を見るのは久しぶりだの」
 いきなりとても低く、少ししわがれた様な声が聞こえた。
 一瞬、静かにこちらを見据える少年が喋ったのかと思ったが、次の声でその声の主を理解した。
 「おや、人語を話すライオンが珍しいのか。無理もない。自然の流れでは決して有り得ないことだからの」
 ライオンはくつくつと笑っている。その顔は、百獣の王と呼ばれるのが嘘と思われるほど優しく、普段の怖いイメージからは想像も出来ないほどだった。
 私がいつまでも呆けているとライオンはこちらに気付き、スマンスマンと言ってから私がさっきから知りたいと思っていたことを予想でもしていたかのようにゆっくりとした口調で語り出した。
 「わしがお主を助けたんじゃよ。あんなところで倒れていては死体だと思って他の者が食べてしまうかもしれないからの」
 どうやら私は助けられたようだ。
 「なぜわしが喋られるのか、まずはそこから話そうか。結論から言おう。この森に住んでおる者は全て"獣人"と呼ばれる種族の者じゃ。その名の通り身体の中を人と獣、どちらの血も流れておる。人間と獣の交配種なんじゃよ。だからわしは、より人間に近い知能を持ち、喋ることが出来るんじゃ。逆にこの子は、獣の血を色濃く受け継いだ人間だから喋ることが出来ないんじゃよ」
 全てに納得した訳ではないがとりあえず意味は分かった。話しは続く。
 「もともとこの森も普通の森と変わらない自然な森じゃった。じゃが何年か前に白衣を着た人間共がやって来ての。何人かは喰らってやったんだが、奴らは多いし、科学の力もある。結局仲間はたくさん死に、生き残りの中からも無作為に捕獲されて、実験体にされてしまったんじゃよ。奴らの実験は非道じゃ。ある日帰ってきたセキレイのシルフは何日か後に肉体が変化し、五体が千切れて死んでしまったし、ネコのミーナは筋肉が異常な速度で発達して身体が進化速度に耐えられなくなって死んでしまった。残ったわしらは、何とか生き残ろうと必死だった。そこへ、今度は街から迫害されたという人間が現れた。わしらは人間に恨みを持っていたが、喰うことは堪え、より強い子孫を残そうと考えた。そうして生まれてきたのじゃ」
 ライオンは悲しそうというよりもむしろ懐かしそうに語っていた。一つ一つを思い出すように。
 私は不思議と可哀想とか、そういう感情を抱かなかった。人間とはそういうものだと知っているからだろう。更に話しは続く。
 「人間はまたやって来た。獣人など異例だろうからな。じゃが、わしらは前のように弱くはなかった。人間を追い返したんじゃ。あの時は嬉しかったのう。それ以来人間は来ず、森に来た人間も死に、お主があの日から初めての来訪者じゃ」
 どうやら話しは終わったようだ。ライオンはこちらをしっかりと見ると、
「じゃがお主からは今までの人間とは違う何かを感じるのう」
と言った。当たり前だと思った。私には記憶がない。人間らしさが何かなどよく知らない。
 深い考えに耽っていると、ライオンは重い空気を察知したのか、
「そうじゃ。お主今日はわしらの祭りに参加せぬか。夜に炎のまわりを踊り歩くんじゃ。楽しいぞ、どうじゃ」
と、勧めてきた。ここで断るとライオンが気を悪くするだろうし、断る理由もないので、
「ええ。ではお言葉に甘えて、そうさせていただきます」
とだけ返した。
「自己紹介がまだだったの。わしはリオウ、この子はディンじゃ。よろしくのう。お主はなんというんじゃ」
 少しだけ躊躇った後、
「ネリです」
と答えた。初めて他人に名前を教えた瞬間だった。

 夜が更けていく。
 宴が始まろうとしていた。
 そう、獣の血が騒ぐ、満月の夜の宴が。

 To the next time
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 A shadow toward the sunlightⅡ

 砂漠は未だ終わらない。汗が眼に染みる。
 此処はひたすらに炎天下のようだ。
 一年に一度の"神涙の日"はずっと前に終わった。
 絶対にたどり着けるという意志は遙か彼方で尽き、今はただ、死者のように砂漠を歩いているだけであった。
 何度かオアシスがあったであろう場所を見かけた。其処には少量の水が溜まっていて、実験所を出てすぐの処に落ちていた大量の空き瓶に水を入れて此処まで耐えてきた。
 だがしかし、それももう終わりのようだ。水は尽きた。
 後は、現在体の中にある水分しか残っていない。汗の一粒も無駄にしないようにし、歩いていると、私は極限状態の最後を知った。
 愕然とした。其処に広がっていたのは、樹海だったのだ。砂の山を登った所で、眼前で砂漠を横に一刀両断する緑に多少怖じ気づいたほどだ。
 だが、これはついている。今此処で倒れては、笑いものだ。私は最後の力を振り絞り、日陰に入り、座った。
 (涼しい・・・)
 単純にそう思った。ただ日陰に入るだけでこんなに体感温度が変わるものだろうか。
 眼の焦点が定まっていない。砂漠で反射した日光で目の前に緑のもやが広がる。
 しばらくぼーっとしていた。不意に我に返り、ばっと立ち上がると、あたりに誰かいないかと見回した。
 神経をすり減らしてきただけに、過敏に反応するようになっているのだ。
 「とりあえず・・・行ける所まで行ってみるか」
 
 おそらく30分は歩いただろう。
 先に続くのはひたすら木と草のみだ。
 疲れもピークに達している。空に浮かぶ太陽は大分傾き、月が昇ろうとしている。
 足下に生えているきのこを抜き、手に取った。
 派手な色をした毒々しいきのこだが、これだけ腹が減っていては仕方ない。
 端の方を少し噛んでみた。と、途端にはき出した。
 口の中が酷く痺れる。麻痺作用のあるきのこのようだ。
 (こんな生活続けてたら、胃が強くなるだろうな・・・)
 そんなことを思いながら、さっさとそのきのこを足下に捨てて、他のきのこを一心不乱に探した。
 途中、菜っ葉なども見つけ、沢山摘んで奥に進んでいった。
 
 なにか音がする。和太鼓を連打し続ける音のようだ。
 近づいて行ってみると其処には滝が流れていた。
 周囲に白い霧を飛ばしながら止めどなく流れ出る水。
 飛び込んだ。魚になったようだ。
 体に命が戻ってくる。必死に水を飲み、体を潤した。
 (こんなところに・・・なんでだ?)
 頭は疑問を抱えているのに、体は水だけを欲している。
 水を飲み、安心したところで、どっと疲れが出てきた。
 腹は満たされなかったがそれなりに食べることは出来た。
 水を飲むことも出来た。
 私は何を考えることもなく、いつの間にか深い眠りについていた。

 足音がする。
 金色の眼が森の中からこちらを覗きこんだ。

 To the next time
 
 その時、私は白い実験室の中で、被験者NO.1007の対外栄養吸収実験の主治医をしていた。
 実験は危険なもので、麻酔を打つと神経に副作用が出る可能性があるので、あえて麻酔を打たずに実験は行った。
 患者は酷く痛がり、暴れた。だが、人類存亡の為にはやむなしと、実験は続行した。
 途中、一度脈が落ちて慌てたがなんとか持ち直し、実験は成功した。
 だが、その実験は成功してはいけなかった。
 意識が戻った患者は錯乱状態にあり、メスを振り回した。
 私の助手は顔を刺されて死んだ。仲間の断末魔が響く中、私はなんとか被験者をを取り押さえようとしたが、無駄だった。
 胸を切り裂かれた私は、重度の傷を負った。死んだふりをしてその場を凌ぎ、被験者が赤く染まった実験室を出て行った後、仲間の元へ駆け寄った。
 大多数が死に、生きている者も虫の息だ。これでは命は持つまい。私は彼等を楽な姿勢で寝かせた後、簡単な治療を済ませて実験室を出た。
 雨が降ってきた。傷に染みる雨。大きな音を立てて、足下の砂を濡らし、さらっていく。
 ふと、涙が零れ落ちた。止めどなく溢れ出た。
 「何をしてたんだろうな、私は・・・」
 涙を拭いもせず、そう呟いた。
 思えば今まで、何人もの人間の実験をしてきた。失敗例が多く、嫌でも人の死に目を見てきた。
 何も思わなかった。人が死ぬ、それは当たり前のこととして、日常の中にまで浸透していた。
 ならば何故涙が出るのか。解らなかった。
 生きる者の死。今まで普通だったことが急に壁となって目の前に現れたようだ。
 涙が止まった。私は涙を拭うと、落ち着き払った様子で前へと歩き出した。
 過去を清算しようとは思わない。だが、これからは違ったことをしてみたい。
 どこへ行こうとは思わなかった。だが、どこかへは行こうと思った。
 歩みは止めない。
 未だ、雨は止まない。

 A shadow toward the sunlightⅠ

 照りつける太陽が顔を灼き、眼が開けられない。
 致死量に至るほどの汗を流し、今にも倒れそうな私は、精神力だけで生きていた。
 そろそろ1年に一度の雨の日のはずだ。そう思いながらやっと此処まで生きてきた。
 私はもつれる足をなんとかこらえ、木の棒を支えにしながらひたすら歩いた。
 影は無い。いや、私の後ろに唯一ある。それだけだ。
 何度も見てきたのは死体。すでに骨だけであるが、私に恐怖心を植え付けるには十分な時間だった。
 そして今、ついに最後の時が来たようだ。
 視界が霞み、何もかもが幻のように見える。
 意識が遠のいていく――――。
 
 「NO.1007」
 そう呼ばれ、白一色の実験室に入っていったのを覚えている。
 「これより、対外栄養吸収実験Ⅰ適合手術を行う」
 醜い争いを繰り返し、壊れていった人類は最後の手段として、食物を食べなくても体内で栄養を確保することの出来る人間を造ろうとしたんだ。今や地球の2/3は砂漠。街があったとしても其処はすでに廃墟。
 生きている人間は裕福で"天国"への出入りを許可されていた者、運良く戦争から逃れていた者、そして私と同じように適合手術を受けた者だけとなってしまった。
 手術は激痛を伴うものだった。声にならない絶叫が四角い部屋を包み込み、私は暴れた。
 結果、手術は成功。半分気が狂っていた私はそこらにある手術道具で執刀医の胸を切り裂き、殺した。
  白い部屋から抜け出した私は、ひたすらに続く砂漠に足を向け、歩き出した。
 
  私には過去がない。覚えている名前は「NO.1007」だけだ。
  そこで私は自分に名前を付けた。"ネリ"という。
  人一人いない砂漠、なぜだか腹は減ってこないが自然と心に悲しみが満ちてくる。
  今までに味わったことの無い感情。溢れる気持ちに涙が出てきた。
  乾いた砂の上に一粒の雨が落ちた。
  1年に一度の雨、私が実験所をでた今日、その日は"神涙の日"だった。
  私の心を照らし合わせたような大粒の涙が、空から降ってきた。
  頬を流れ続けた涙はやがて止まり、私はまず街を目指した。
  あてなど無かった。だが、心のどこかで絶対に辿り着くという自信があった。

 To the next time

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1992/04/28
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音楽:
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